HYROX PRO相当を、初めて通しでやってみた

HYROXに挑戦しようと思ったとき、最初は動画で見ていました。

世界中のアスリートたちが、ランとファンクショナル種目を淡々とこなしていく。苦しそうではあるけれど、どこか爽やかで、リズムがあり、鍛えられた人間が合理的に身体を使っている競技に見えました。

しかし、実際にPRO相当の重量で8種目を通しでやってみると、印象はまったく変わりました。

これは、想像以上にきつい。

単に体力が必要というより、脚、心肺、握力、体幹、上半身、そして精神力が、順番に削られていく競技でした。

今回は、初めてHYROX PRO相当の重量で8種目を通したときの記録を、実際の順番に沿って書いてみます。

ちなみに、PRO(男子)の内容はこうなっています。1kmランを8本、その間に、スキーエルゴ1000m、スレッドプッシュ50m(202kg・そり込み)、スレッドプル50m(153kg・そり込み)、バーピーブロードジャンプ80m、ローイング1000m、ファーマーズキャリー200m(32kg×2)、サンドバッグランジ100m(30kg)、そして最後にウォールボール100回(9kg)。

文字にすると、まだ淡々として見えます。実際は、違いました。

最初の1kmラン。「いける」と思ったのが、最初の失敗だった

最初の1kmランは、気合いが入っています。

「いけるのではないか」

そう思ってしまうくらい、最初は身体も動きます。むしろ、少し飛ばしすぎてしまう。

ただ、この最初の入り方が、後から大きく効いてきました。HYROXは、1kmランを8本走る競技です。最初の1本だけ速く走れても、何の意味もありません。

むしろ、最初に気持ちよく走ってしまった分、その後の種目で一気に余裕がなくなっていきました。

スキーエルゴ。何が正解の動きなのか、最後まで分からない

最初のランの後は、スキーエルゴです。

動画で見ると、上手い選手はリズムよく、力強く、淡々と引いています。ところが、自分でやってみると、何が正解なのか分からない。

腕で引くのか。

体重を乗せるのか。

腹筋を使うのか。

股関節を使うのか。

頭では分かっているつもりでも、実際には動きがつながらない。しかも、思った以上に疲れる。

「最初の種目だから、まだ楽なのではないか」と思っていましたが、全然そんなことはありませんでした。ここで上半身と心肺が、じわじわ削られます。

2本目のラン。ここで、HYROXの嫌な構造が見えてくる

スキーエルゴを終えて、2本目の1kmランに入ります。

ここで初めて気づきます。

HYROXのランは、単独のランではない。

常に前の種目の疲労を背負った状態で、次の1kmを走らなければならない。

この時点では、まだ何とか走れます。ただ、最初の1kmのような軽さはありません。呼吸は少し荒くなり、脚も重くなっている。

そして、この後のスレッドプッシュで、状況が大きく変わりました。

スレッドプッシュ。まさか、ここまで動かないとは思わなかった

次はスレッドプッシュです。

正直、これが想像以上でした。

「重いだろう」とは思っていました。ただ、押せば少しずつ進むものだと思っていました。

ところが、実際にはまさかのレベルで動かない。

全身で押しているつもりなのに、スレッドが進まない。脚で地面を押しているのに、身体だけが潰れていく感覚がある。

何とか50mをやり切りましたが、代償が大きすぎました。

終わった時点で、脚がすでにガクガクしていました。太もも、臀部、ふくらはぎに疲労が一気に入り、心拍もかなり上がっている。

ここで初めて、「これは最後まで行けるのか」と思いました。

3本目のラン。もはや、時速8kmでしか走れない

スレッドプッシュの後の3本目のラン。

ここで完全に変わりました。

もう、普通のペースでは走れない。

感覚としては、時速8kmくらいの低速でしか入れません。走っているというより、何とか前に進んでいるだけに近い。

最初に飛ばしすぎたこと。

スレッドプッシュが思った以上に重く、体力を使い切ってしまったこと。

その両方が一気に効いてきました。

HYROXの怖さは、種目ごとのきつさだけではありません。前の種目で削られた状態のまま、次のランに戻されることです。

この3本目のランから、「今日はもう記録を狙う日ではない。最後まで辿り着けるかどうかだ」と思うようになりました。

スレッドプル。引けない。握れない。滑る。転ぶ

次はスレッドプルです。

これも、想像以上に引けませんでした。

ロープを握って、身体を後ろに倒して、全身で引く。頭ではそう分かっているのですが、実際には全然進まない。

最初はまだ少し動きます。しかし、後半になると握力がなくなってきます。

ロープを握っているつもりなのに、手から滑る。

踏ん張っているつもりなのに、身体が持っていかれる。

最後の方は、もはやびくともしない感覚がありました。

本番では当然やってはいけませんが、練習では、ロープを体に巻きつけて何とか引くくらいしかできない場面もありました。それでもきつい。

しかも、手が滑って転ぶ。

この種目は、単に背中や脚が強ければいいというものではありません。握力、体幹、姿勢、ロープワーク、足裏のグリップまで含めた総合種目だと感じました。

バーピーブロードジャンプ。4〜5回で地獄が始まる

次はバーピーブロードジャンプです。

これがまた、ランの後にやるにはあまりにもきつい。

4〜5回やった時点で、すでに地獄です。

床に手をつく。

身体を落とす。

立ち上がる。

前に跳ぶ。

この一つひとつが重い。

普段から腕立て伏せを十分にやっていなかったこともあり、上半身の筋持久力が圧倒的に足りないことを痛感しました。

脚もきつい。心肺もきつい。しかし、それ以上に、腕と肩と胸が耐えられない。

バーピーという名前から、何となく「根性種目」くらいに思っていましたが、実際にはかなり総合的な種目です。上半身の持久力が弱いと、一気に崩れます。

ローイング。座れるだけで、もはやオアシス

バーピーブロードジャンプの後は、ローイングです。

ここで、初めて座れます。

この「座れる」というだけで、もはやオアシスでした。

もちろん、ペースは速くありません。強く引こうとしても、脚も背中も腕もすでに疲れている。

それでも、床に倒れ込んだり、重いものを押したり引いたりする種目に比べれば、ローイングにはまだ救いがある。

心拍は高いままです。脚も重い。呼吸もきつい。

それでも、「座ってできる」というだけで、心理的にはかなり助かりました。

HYROXの中でローイングが楽だという意味ではありません。ただ、この時点の自分にとっては、唯一の休憩所のように感じました。

ファーマーズキャリー。10mで限界が来る。200mなど、現実に思えない

6種目目はファーマーズキャリーです。

これも、動画で見ていた印象と全然違いました。

重いケトルベルを両手に持って歩く。

言葉にすると単純です。

しかし、実際にやると、10mくらいですぐに限界が来ます。

握力がきつい。

前腕が張る。

肩も背中も耐えられない。

姿勢を保つだけでも苦しい。

「これを200m持つ人たちは、一体どうなっているのか」と本気で思いました。

ファーマーズキャリーは、脚で進む種目に見えて、実際には握力と体幹の種目です。握れなくなった瞬間、終わります。

ここまで来ると、身体のあらゆる部位に疲労が入っていて、単純な動作すら難しくなっていました。

サンドバッグランジ。そもそも、肩に担げない

7種目目はサンドバッグランジです。

ここで、本当に限界が来ました。

脚がきつい以前に、まずサンドバッグを肩に乗せることができない。

持ち上げようとしても、身体が言うことを聞かない。

肩に乗せようとしても、うまく担げない。

仮に担げたとしても、そこからランジで前に進むことを考えると、絶望感があります。

ランジそのものも、脚に強烈に来ます。片脚で沈み、立ち上がり、また次の一歩を出す。そのたびに、太ももと臀部が悲鳴を上げる。

この時点で、「通しでやる」ということの意味が分かりました。

単発ならできる種目でも、7種目目に来ると、まったく別物になります。

サンドバッグランジに必要なのは、脚の強さだけではありません。担ぐ力、体幹、呼吸、そして崩れた状態でも動き続ける精神力でした。

ウォールボール。2回連続で、できない

最後はウォールボールです。

動画では、選手たちがリズムよく、さわやかに投げています。

しかし、実際にやってみると、まったく違いました。

まず、ボールが重い。

2回連続でできない。

スクワットして、立ち上がって、ボールを投げる。

その動作を連続するだけの体幹が、もう残っていません。

しかも、汗がすごくて、ボールが滑る。

キャッチしても安定しない。投げようとしても力が伝わらない。体幹が耐えられず、フォームが崩れる。

「動画ではあんなに爽やかにやっていたのに、なんなんだろうか」

本気でそう思いました。

最後の種目にウォールボールが置かれている意味が、よく分かりました。これは、単なる仕上げではありません。全身を使い果たした後に、もう一度、姿勢と出力を求められる種目です。

終わった後。自律神経まで、使い果たした

すべてを終えた後、身体は完全に使い果たされていました。

脚が重い。

腕も重い。

握力もない。

呼吸も整わない。

そして何より、自律神経まで使い果たしたような感覚がありました。

帰りの電車では、降りる駅を二回も間違えました。

後続の予定には、結果的に1時間遅れで到着。

満身創痍とは、このことかと思いました。

ただ、不思議なことに、そこには少しだけ誇らしさもありました。

想像以上に、自分はダメだった。

けれど、想像以上に、自分は頑張れた。

初めての通しで分かったのは、自分の弱さと、まだ使っていない力

HYROX PRO相当の重量を初めて通しでやってみて分かったのは、自分の弱さでした。

心肺の弱さ。

上半身の筋持久力の弱さ。

握力の弱さ。

体幹の弱さ。

そして、ペース配分の甘さ。

しかし同時に、「ここまで追い込まれても、人は意外と前に進める」ということも分かりました。

HYROXは、見た目よりはるかに過酷です。

でも、自分の身体と精神を、かなり正直に映してくれる競技でもあります。

できないことが、はっきり分かる。

足りないものが、隠せない。

それでも、最後までやり切ると、自分の中にまだ使っていない力があることも分かる。

初めての通し練習は、記録としてはまったく満足できるものではありませんでした。

ただ、挑戦としては、かなり価値がありました。

ここから、どこまで自分の身体を作り替えられるのか。

それを確かめるには、HYROXは非常にいい競技だと思います。

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