HYROXとは何か。なぜ私は、「使える身体」を取り戻す競技に挑むのか

最近、単純に筋トレするだけだと、はりあいがないなと思い、何かいい目標はないかと探していた所、ある競技に出会い、挑戦をはじめた。
HYROX(ハイロックス)である。

日本では、マラソンやトライアスロンほど一般的ではないかもしれない。
しかし世界では、いま最も急速に広がっているフィットネスレースのひとつだ。単なる筋トレ大会でも、ランニング大会でもない。

この記事では、HYROXという競技の仕組みと、私がなぜこの競技を「精神力」と「健康長寿」を同時に鍛える訓練として選んだのかを書いてみたい。

ルールは驚くほどシンプル。「1km走って、1種目」を8回繰り返す

HYROXは、2017年にドイツ・ハンブルクで創設された。公式情報では、国際的なマス参加型スポーツイベントを数多く手がけてきたChristian Toetzke氏と、五輪金メダリストでありホッケー世界王者でもあるMoritz Fürste氏が創設者として紹介されている。HYROX Japanの公式ページでは、マーケティング専門家のMichael Trautmann氏も併記されている。

競技内容は、非常にシンプルだ。

1km走る。
その後、1つのワークアウトを行う。
これを8回繰り返す。

合計で、8kmのランニングと8つのファンクショナルワークアウト。
種目は、SkiErg(スキーエルゴ)、Sled Push(スレッド押し)、Sled Pull(スレッド引き)、Burpee Broad Jump、Row(ローイング)、Farmers Carry、Sandbag Lunges、Wall Ballsの8つで構成される。

走力だけでは足りない。
筋力だけでも足りない。
心肺能力だけでも、最後までは持たない。

重いものを押す。引く。跳ぶ。運ぶ。担ぐ。しゃがむ。投げる。
そして、その間に何度も走る。

つまりHYROXは、見せるための身体ではなく、使える身体を問う競技だと感じている。

HYROXが世界で急成長している理由。自分の現在地が「数字」でわかる

HYROXの面白さは、競技設計のわかりやすさにある。

マラソンのように、距離が決まっている。
筋トレのように、種目が決まっている。
しかも世界共通フォーマットで実施されるため、自分のタイムを世界中の参加者と比較できる。公式サイトでも、各参加者は計測チップを装着し、公式タイムとスプリットが記録され、グローバルランキングで比較できると説明されている。

実際、成長のスピードは驚異的だ。創設当初の大会は数百人規模だったが、いまでは年間数十万人が世界中でスタートラインに立つとされ、報道によれば、ロンドンなど一部の都市では応募が殺到し、抽選制が導入されるほどの人気になっている。

これは、非常に現代的な競技だと思う。

自分の現在地が数字でわかる。
どこで失速したかがわかる。
次に何を鍛えるべきかが見える。

曖昧な「頑張った」ではなく、走力、筋持久力、技術、補給、ペース配分、メンタル。
自分の弱点が、かなり残酷に可視化される。

速い人だけの競技ではない。完走率99%超、「Every Body」のためのレース

ここまで読むと、ストイックなアスリート向けの競技に見えるかもしれない。
しかし、HYROXはエリートだけの競技ではない。

Open、Pro、Doubles、Relayといったカテゴリーがあり、経験者向けの重い負荷だけでなく、ペアやチームで参加する形式も用意されている。

完走タイムの制限はなく、参加資格も不要。公式サイトでは、99%以上の参加者が完走していると説明されており、HYROXは自らを「Every Body」のためのグローバルフィットネスレースと表現している。

この表現は、単なる宣伝文句ではなく、競技設計そのものに表れている。
速い人だけが価値を持つ競技ではない。自分の現在地から、どこまで身体を高められるかを問う競技である。

私が惹かれた理由。これは「身体を通じた自己統治」の訓練だ

私がHYROXに惹かれた理由は、流行っているからではない。

最初に感じたのは、これは「精神力」と「健康長寿」を同時に鍛えるための、かなり優れた競技なのではないか、ということだった。

健康のために運動する。筋肉をつける。体脂肪を落とす。心肺機能を高める。
それぞれは大事だ。しかしHYROXでは、それらが分断されていない。

速く走れても、スレッドで脚が止まる。
筋力があっても、心拍が上がると動けなくなる。
気合いだけで突っ込むと、後半に身体が動かなくなる。
逆に抑えすぎると、競技としてのタイムは出ない。

ここには、人生や仕事に近いものがある。

強さとは、単発の最大出力ではない。
苦しい状態でも、自分を乱さず、次の動作を続けられることだ。

HYROXでは、疲労が溜まった状態で、もう一度走らなければならない。
呼吸が上がった状態で、重いものを押さなければならない。
脚が終わりかけた状態で、ランジをしなければならない。
そして最後には、ウォールボールを100回こなさなければならない。

これは、身体を通じた自己統治の訓練だと思う。

健康長寿の視点。WHOが推奨する「心肺×筋力」を、一度に問う競技

健康長寿という観点でも、HYROXには学ぶべき点がある。

世界保健機関(WHO)は成人に対し、中強度の有酸素運動を週150〜300分、または高強度の有酸素運動を週75〜150分行うことに加え、主要筋群を使う筋力強化活動を週2日以上行うことを推奨している。

要するに、健康のためには、心肺だけでも不十分で、筋力だけでも不十分だということだ。

走れる身体。持ち上げられる身体。支えられる身体。
転びにくい身体。疲れても姿勢を保てる身体。

年齢を重ねても自由に動ける身体とは、見た目の筋肉ではなく、日常や非常時に実際に使える身体だと思う。
その意味で、HYROXは「使える肉体」を鍛える競技として、非常に面白い。

もちろん、HYROXをやれば自動的に健康になる、という話ではない。
競技である以上、やりすぎれば怪我もする。
睡眠を削り、回復を無視し、記録だけを追えば、むしろ健康長寿からは遠ざかる。

だからこそ、自分にとってHYROXは、単なる大会ではない。

身体を壊すための挑戦ではなく、身体を磨くための挑戦。
見栄のための肉体ではなく、人生を最後まで自由に動かすための肉体。
そして、苦しい局面でも自分を統治する精神力を鍛えるための競技。

そう位置づけている。

HYROXは、現代人にとっての「身体の再教育」かもしれない

現代の生活では、身体を使う場面が減っている。

移動は短くなり、仕事は座り、重いものを持つ機会も少なくなった。
便利になった一方で、私たちは自分の身体をどこまで使えるのかを、日常の中で確認しにくくなっている。

HYROXは、その問いを突きつけてくる。

自分は走れるのか。押せるのか。引けるのか。運べるのか。
疲れても動けるのか。
苦しくても、呼吸を整え、次の一歩を出せるのか。

この競技に挑戦することは、単に体力を競うことではない。
自分の身体との関係を取り戻すことでもある。

使える肉体をつくることは、自由を増やすこと

私は、HYROXを通じて、長く使えるタフな身体をつくりたい。

年齢を重ねても、家族と動ける身体。
仕事で高い集中力を維持できる身体。
精神が乱れたときにも、身体から自分を立て直せる状態。

そのための競技として、HYROXはかなり良い入口になるのではないかと思っている。

これは、フィットネスの話であり、同時に生き方の話でもある。

HYROXへの挑戦は、私にとって、身体を鍛えることではなく、自分を鍛えることだ。
そして、使える肉体をつくることは、自由を増やすことでもある。

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